AI創薬のメリット

「開発期間に数十年…」「開発コストが膨大…」と、解決しがたい様々な課題を抱えている創薬事業。こうした状況を受け、AIの技術を使って新薬の研究や開発のプロセスを効率化、DX化しようという動きが創薬・製薬企業の中で広がりつつあります。

創薬のアプローチにAIの技術を用いた、いわゆる「AI創薬」を導入した場合、企業はどんなメリットが得られるのか。わかりやすく解説していきます。

目次
創薬のメリット

AI創薬導入による主なメリットとは?

情報探索の効率化、研究員の負荷軽減

創薬に携わる研究員は、研究テーマや仮設生成に繋がる情報を探すため「PubMed」のような論文データベースを利用します。「PubMed」には3000万報以上の論文が掲載されているといわれ、その数は年々増えています。

それぞれの研究機関や製薬企業が所有する化合物のライブラリーやデータベースも膨大な数があり、それらのデータは日々蓄積され増加の一途を辿っています。

アプローチできる情報が増えたことは喜ばしいものの、研究員のリソースには限界があります。多種多様なデータを活用して、創薬ターゲットを選定、膨大な論文情報から仮説を生成する……すべて人力でこなすのは難しいというのが現実です。

AIであれば、こうした「既知の情報」から「未知の情報」を生み出すことも可能です。「PubMedに掲載された論文の情報を読み込み、最適な化合物を見つけ出す」いった具合に、これまで人の手で行なっていた作業も自動かつ短時間で行なってくれます。

創薬の成功率・確実性の向上が期待できる

創薬の成功確率は「3万分の1」と言われ、研究にかかる期間も長期化、コストも膨れ上がる一方。成功確率が低い原因としては「対象がより複雑な疾患にシフトしている」ことなどが挙げられますが、そもそも新規の標的を探索すること自体が新しいチャレンジであり、それに伴う考察・検証・評価が難しくなり、相応の時間を要するのも必然と言えるでしょう。

このように標的分子の探索や選定を早期に動物実験や臨床試験に頼らない創薬開発を実現するために、バーチャルな治験を可能にするAI、動物実験の結果をヒトに当てはめて効能・副作用を予測するAIなどが開発されています。

従来であれば、創薬フェーズの後期段階でしか発見できなかった安全性への懸念、毒性、危険となりえるファクターを初期段階で把握することが可能。失敗のリスクを事前に察知しておくことで、創薬の成功率・確実の向上が期待できるでしょう。

ヒトの視点にない「新しい発見・仮説のヒント」に出会える

これまでの創薬の研究・開発は、良くも悪くも属人的でした。研究員や専門家が日々論文を読み込み、そこから得た知見を頼りに研究テーマや仮説を組み立てていきます。

しかし、いくら情報を収集しても新しい研究テーマや仮説が思い浮かばないことも少なくありません。情報が溢れかえった現代では、テーマに関連する論文にたどり着くことさえ一苦労です。

AIはこうした課題にもアプローチすることが可能。人のバイアスがかかっていないので、あらゆる情報を網羅的かつ客観的に収集でき、疾患などとの関連性も一定の法則で導き出してくれます。人間が思いつかない新しい発見、仮説のヒントを与えてくれるのも、AIを導入するメリットと言えます。

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創薬プロセスはどう効率化される?

創薬プロセスの課題
引用元:【PDF】医薬品開発におけるAIの活用について(https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000926770.pdf)

ここからは「基礎研究・アイデア着想」「ターゲット探索」「化合物最適化」「非臨床試験」といった主な創薬のフェーズごとに、AI活用・導入のメリットを紹介。導入前と導入後でどんな改善が図れるのか、簡単な例を用いて解説します。

段階1.:例えば、基礎研究・アイデア着想なら…

AI導入前

研究テーマや仮説になりえる情報を探すため、PubMedなどで論文を検索するも、欲しい情報に辿り着けない。どうしても「キーワード検索」になってしまうため、自分の知見を超えるような発見がない

AI導入後

自然言語処理のAI導入により、キーワード検索ではなく、文章や仮説といった“概念検索”が可能に。マッピングされた情報を見て、意外な繋がりや関係性をわずか数分で把握することができる。

段階2.:例えば、ターゲット探索なら…

AI導入前

オミックス解析やリアルワールドデータなどを駆使して、新規のターゲットを何とか発見するも、標的の精査や因果関係の考察、分析や解釈を証明するための論拠出しに時間がかかってしまう。

AI導入後

膨大な論文情報をベースに、AIが分析対象となる疾患に関する因子や遺伝子の情報をパスウェイマップ(関連性を表す経路図)状に可視化。分子間・遺伝子間の繋がりを瞬時に把握することができる

段階3.:例えば、化合物最適化なら…

AI導入前

膨大な数の化合物ライブラリーから候補化合物を絞り込む際、中分子の候補化合物はこれまでのコンピュータでは安定構造を探索することが難しく、ウェット実験を繰り返し行なわなければならなかった

AI導入後

組み合わせの最適化問題を解く技術の活用により、通常2年ほどかかる環状ペプチド化合物の安定構造の探索をわずか12時間以内で実施することができた。

参照元:製薬メーカーのDX(https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/publication/chitekishisan/2022/03/cs20220306.pdf?la=ja-JP&hash=830A8769FD9187B2BE1464212F7164181D5E7B27)

段階4: 例えば、非臨床試験(臨床前試験)なら…

AI導入前

マウスなどの動物実験ではヒトとの「種差」に由来する根本的な問題を解決できずにそのまま治験へと進み、その結果思わぬ副作用が発生したり、有効性が確認できなかったりと、開発中止を余儀なくされた。

AI導入後

生体内反応をデジタルで可視化する技術によって、動物実験の結果からヒトに生じる効能・副作用を予測するシステムを開発。低リスク、低コストの創薬が可能に。

考察

創薬の初期段階にアプローチできるAIに注目
~「New-drug-discovery」編集チーム(Zenken)より~

ここまで見てきたとおり、AI創薬の導入による主なメリットとしては、「情報の探索、評価・検証の効率化」「研究員の負担軽減」「創薬の成功率向上が期待できる」「新しい仮説のヒントが得られる」などが挙げられます。 基礎研究・ターゲット探索・化合物最適化・非臨床試験といった段階でもAIの活用は進み、実際に改善が図れた事例も散見されます。

ただ、厚生労働省が「医薬品開発におけるAIの活用について」という資料で訴えているとおり、創薬の初期段階ではAIの活用が進んでいないという現状があります。

基礎研究やターゲット探索は創薬プロセスの中でも、十数年という最も多くの時間と労力を割く工程でもあり、裏を返せばこのプロセスを効率化・高速化することで、開発スピードの大幅な短縮とコスト削減が可能になります。新型コロナウイルス(COVID-19)のワクチン開発で、海外製薬メーカーのAIを使ったスピーディーな開発が注目を浴びたように、今後もAIを使った創薬プロセスの効率化は世界的に進んでいくと考えられます。

当メディアを運営する「New-drug-discovery」編集チームでは、そんな創薬の初期段階における仮説生成やターゲット探索に役立つAIを開発し、企業の課題解決に寄りそうサービスを提供する株式会社FRONTEOに注目。その創薬支援サービス「Drug Discovery AI Factory」の魅力や革新性についてインタビュー取材しました。創薬の初期段階の課題を解決したいとお悩みの企業の方はぜひ下記リンクからチェックしてみてください。

AI創薬の現状・課題や
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取材協力
FRONTEOの公式サイトキャプチャ

引用元:FRONTEO公式HP
(https://a6ny5mfs.lp-essence.com/)

自然言語AI+バイオロジストが課題を解決

FRONTEOの「Drug Discovery AI Factory」は、AIを活用して、創薬プロセスの効率化・高速化を支援するソリューションです。基礎研究・標的探索・仮説生成といった創薬の初期段階において、大手製薬企業出身のバイオロジストが自社開発の自然言語AI「KIBIT」を活用し、重複差分解析や2次元マッピング解析、ベクトル加算解析など独自の解析を実施。顧客のオーダーにあわせた標的分子・バイオマーカー・MoA・新たな適応症の提案などをスピーディーに行なってくれます。