AI創薬のデメリット
「AI創薬」とはAIの技術を用いて、創薬プロセスの効率化・生産性向上を図る取り組みのこと。「情報探索の効率化」「研究員の負荷が軽減される」「創薬の成功率・確実性の向上」「新しい発見・仮説のヒントに出会える」といったメリットが期待できる一方で、デメリットや注意点も存在します。
ここでは「AI創薬」をうまく活用するために、事前に把握しておきたいデメリット、懸念点や注意点をお伝えします。
AI創薬の活用にあたって
把握しておくべきデメリット・注意点は?
学習の対象となるデータが揃っているか?
まず一つ目に挙げられるのが、活用できるデータの不足です。前提として認識しておかなければいけないのは、「AIは何でも可能にする魔法の杖ではない」ということ。AIの力を最大限活用するには、当然ながら学習の対象となる大量のデータが必要となります。ですが、多くの医療機関で作成している電子カルテや患者情報などのデータ類は「治療」を前提としたものであり、AI活用を見据えた形式にはなっていません。
このため、創薬AIの導入・活用を見据えるならデータのフォーマットを統一したり、データを蓄積・管理しておくためのストレージやシステム環境を整備したり、事前の準備が大切になります。患者情報には疾患歴や薬剤の服用歴などのセンシティブな情報も当然含まれるため、個人情報保護や倫理面の配慮も求められています。
AIと創薬の知見を併せ持つ人材はいるか?
AIはただソフトやアプリケーションを「導入して終わり」というわけではありません。AIを正しく活用するための知識やスキルを備えた人材が必要になります。加えて、創薬プロセスの課題をAIで解決するとなると、創薬に関する専門的知識も必要になるでしょう。
しかし、AIの知識と創薬の知識を併せ持つ人材を社内で育成するのは、現時点では非常に難しいと言わざるを得ません。今のところは製薬企業とAI開発企業とで共同プロジェクト化したり、創薬の知見を持つバイオロジストが在籍するAI企業に依頼したり、外部の企業に依頼するケースが多いと言えます。
メンテナンス・保守運用にどれくらいかかるか?
AIアプリケーションを導入した後に、AIの予測精度が落ちることがしばしばあります。データが更新・アップデートされていなかった、環境の変化があった等理由は様々ですが、AIの精度を維持・向上させていくには、多くの場合、追加学習や定期的なメンテナンスが必要になります。このメンテナンス・保守運用に「想定以上の工数がかかってしまった」「開発ベンダーでは対応しきれない」といったケースも散見されます。
創薬に関しても、論文情報や実験データなど膨大な情報を取り扱うため、定期的なメンテナンスや保守運用も必要になります。AIを導入・活用するなら、「メンテナンスにどれくらいの手間がかかるか」をしっかり把握しておくべきでしょう。
デメリットや注意点はあるものの
AI創薬の導入・活用が進む
世界ではAIスタートアップ企業への投資が加速
ここまで述べてきたようなデメリットや注意点、懸念点はあるものの、製薬業界では創薬プロセスの効率化を支援するAIの導入・活用が進んでいます。
中でも海外の製薬企業ではAIスタートアップ企業を注視しています。2020年にはヘルスケア関連のAIスタートアップ企業への投資額が、世界全体で初めて20億ドルを突破(※)。大規模な資金調達に成功する企業も増えてきています。
また、ヘルスケア事業を主力としていない企業が、自社が持つAIなどのテクノロジーを武器に製薬・創薬の分野に参戦するケースも増加傾向にあると言えます。2021年にはアメリカGoogle社の親会社であるAlphabet社が、AI創薬事業を行う新会社Isomorphic Labs社を設立するなど、AIが最もパフォーマンスを発揮する領域として製薬・創薬に注目している企業も少なくありません。
日本でも大手製薬企業がAIベンチャーを注視
創薬に関連するAIベンチャー企業への注目が高まっているのは世界だけではありません。
日本でも例えば、第一三共株式会社がAIベンチャーの株式会社エクサウィザーズとの共同プロジェクト「データ駆動型創薬」を2019年5月からスタートさせ、中外製薬株式会社もライフサイエンス分野の独自AIを開発、創薬支援サービスを提供する株式会社FRONTEOと「創薬支援 AI システムにかかわるライセンス契約」を締結。
日本は世界でも数少ない新薬創出国であり、今後もその強みを活かすべくAI創薬関連企業への需要は高まっていくと考えられます。
AIは「開発・導入して終わり」ではない
~「New-drug-discovery」編集チーム(Zenken)より~
新薬開発のプロセスを効率化・生産性向上に対して大きな期待を集めているAI創薬ですが、導入・活用にあたっては「データが揃っているか」「活用できる人材がいるか」「メンテナンスや保守運用の工数」と様々なデメリットや懸念点を事前に把握しておく必要があります。こうした注意点を放置したまま、AIを導入すれば「宝の持ち腐れ」になってしまう可能性が高いと言えるでしょう。
当メディアを運営する「New-drug-discovery」編集チームでは、「大規模教師データが不要」「AIと創薬の知見を併せ持つバイオロジストが在籍」といった強みを持ち、大手製薬企業への導入実績を持つ株式会社FRONTEOに注目。その創薬支援サービスについて、インタビュー取材しました。創薬の初期段階の課題を解決したいとお悩みの企業の方はぜひ下記リンクからチェックしてみてください。
自然言語AI+バイオロジストが課題を解決
FRONTEOの「Drug Discovery AI Factory」は、AIを活用して、創薬プロセスの効率化・高速化を支援するソリューションです。基礎研究・標的探索・仮説生成といった創薬の初期段階において、大手製薬企業出身のバイオロジストが自社開発の自然言語AI「KIBIT」を活用し、重複差分解析や2次元マッピング解析、ベクトル加算解析など独自の解析を実施。顧客のオーダーにあわせた標的分子・バイオマーカー・MoA・新たな適応症の提案などをスピーディーに行なってくれます。